事務所通信

事務所通信 令和2年5月

在宅勤務の本丸は、ルール作り       税理士 舩橋信治

 在宅勤務を外面的に準備することは簡単です。事務仕事ならノートパソコンがあればいいし、営業ならスマホがあれば十分です。スカイプやZOOMは無料だし、使い方も簡単です。やり方によっては、お金も時間もかかりません。だから、多くの経営者は、そのときになったら在宅勤務について考えればいいと思っています。
 でも私は、在宅勤務の難しさは、内面的な準備にあると思っています。これはとても人間的で個別的な問題です。例えば、朝礼はどうするのでしょうか?その日、朝になって、適当な時間に仕事を始めてもいいのでしょうか?それともスカイプなどで社長の顔を見て、「これから始めます」とか「今から昼休憩をとります」と言う必要があるのでしょうか?ここに正解はありません。会社の文化に合ったやり方を模索するしかないでしょう。
また、本来、在宅勤務は、「ながら仕事」を推奨するものではありません。子供の宿題を教えながら仕事をする、これは許されるのでしょうか?今は学校が休校です。子供の面倒をみながら仕事をしてはいけない、とストレートに言われたら、従業員さんは面白くないでしょう。しかし、ノールールでは、それぞれの従業員さんがそれぞれに好きなように仕事をしてしまい、正直者が馬鹿を見るなんてことになりはしないでしょうか。
 チャットも難しいですよ。なんでも書き込んでいいとすれば、特定の人の批判が始まるかもしれません。「あの人は、在宅勤務の日と言いながらスーパーで買い物をしているところを見た」なんて書き込みがあったら、もう仕事どころではありません。チャットの書き込みにもルールが必要だと感じます。
 それからモチベーションの問題もあります。一人っきりで家にいて、上司からの指示が事務的に忘れた頃にポツンポツンときても、ヤル気は出るでしょうか?かといって頻繁に携帯電話に電話してくる上司もうっとうしいでしょう。
 ある朝、社長に電話がかかってきます。「今日は、体がえらいので、在宅勤務にします」。社長は、すぐに「わかりました」と答えますか?もしもその従業員さんがルールを守らず、成果も上げていなくて、頻繁に在宅勤務を自主的にとる人だったら?反対に、ルールを守り、成果を上げる人だったら迷うことなく「わかりました」と言えると思います。つまり、在宅勤務を採用できる人を例えば3パターンくらいに区分しておいて、①この人はいつでも在宅可能②この人は体調の優れないときに限り在宅可能③この人は在宅禁止で有休をとってもらう、と分けておく必要があると考えます。誰でも自由気ままに在宅勤務を好きなときに出来るとなると、成果を上げない人は、さらに成果を上げなくなることが予想されます。そうなると社長も「在宅なんか、もう止めよう」となり、本来在宅勤務によって仕事もプライベートも充実させれる力をもった人の可能性をつぶしてしまうことになりかねません。また在宅勤務が出来る人をパターン分けするなら、なぜその区分になったかということが、客観的に明確にわかる基準を作らなければなりません。
 次は水道光熱費や福利厚生費の問題があります。在宅勤務はプライベート空間を使って仕事をするわけです。今まで水道代・電気代・飲み物代は会社に行けば当然のごとく存在しました。でも、在宅勤務ですと、会社の仕事をしながらプライベートの財産を利用することになります。水道代・電気代・飲み物代・インターネット接続費用などは会社が後から精算するのでしょうか?でも実際に家庭で使用する部分も含まれるので、割合計算するのでしょうか?ほとんどの企業は、それらを負担していないようですが、もしも、従業員さんに質問されたらどのように答えるのかを準備しておかなければなりません。
 場所も問題です。習い事の待ち時間は1時間くらいあるものです。1時間あればそれなりの仕事は出来ます。カフェや図書館で仕事をしてもいいのでしょうか?図書館だとコピー機がありますが、外でコピーをして情報漏洩は大丈夫でしょうか?
 上記の私があげた事柄は、一つ一つみれば些細なことです。しかし、いさかいは、いつも些細な事の取り扱い方がグレーゾーンになっているために起きるものです。
 在宅勤務にしたら会社がおかしくなってきた、という現象は起こり得ると思います。そうならないためにも、内面的準備を、時間をかけて行うしかないと考えます。
 実際に在宅勤務にならなくても在宅勤務の事を真剣に考えることによって職場のみんなが優しくなれるのではないか、とも思います。従業員さんは、会社のメリットを再確認できると思います。会社というのは、自動的に仕事に集中するように設定されています。目に映るものは、仕事以外の事を考える必要のないものばかりです。また社長さんは、毎日当たり前のように朝出勤してくれている従業員さんがいるからこそ、効率的に仕事が行えることを再確認できると思います。本当は、朝、家族と喧嘩をしたかもしれない、体がえらかったかもしれない、でもそれを口に出さないで出勤してくれる従業員さんの心の内を想像すれば、少しやさしくなれるのではないでしょうか?
 在宅勤務について考えることは、今ある当たり前の日常に感謝することにつながるのではないかと想像します。