事務所通信

事務所通信 平成29年9月


答え 岐阜デパートの方が、よく売れました。その理由は、ワインの数が少なかったからです。
多くの方が、「えー、そんなはずないだろう!品数が多い方がよく売れるに決まっているだろう」、と思ったのではないでしょか?
これは、コロンビア大学のシーナ・アイエンガーという大学教授が、実際に実験を何度もして出した結論です。アイエンガーは、行動認知学的立場からその実験結果の理由を説明しています。すごく簡単に申しますと、人間は選択することを嫌うらしいのです。何かを選択するということは、すごく頭を使っているらしいですよ。
根本的に人間って楽をしたい動物です。頭もあまり使いたくないのです。頭を使わないで、ボーツとしている方が楽ですよね。3時の休憩タイムに数学の文章問題を解いて、「あー、休憩時間はやっぱり数学だね。数学をすると疲れがとれるね」、なんていう人は、いないはずです。そして頭を使う場合、「何かを選択する」というのは、たいへん頭のエネルギーを使っているらしいのです。
例えば、赤ちゃんの頭脳トレーニングは、「何かを選択させるといい」と言われます。「どっちが好きかな?」とか「どっちの色が赤色かな?」とか「今日は、ごはんとパンのどちらが食べたいのかな?」とか「昨日歩いた道は、右の道かな、左の道かな?」なんていう、選択問題をたくさん与えると、脳がより発達するらしいのです。
結論を申しますと、「お客様に、選択するという労力を使わせない」方が商品が売れるということです。売り出す側は、品ぞろえを豊富にして、その道のプロにも満足してもらえるようにしたいと考えます。でも本当にそれをやってしまったら、それはただのマニア専門店になってしまいます。一般の人は、少し種類があれば十分で、あまり商品数が多いと疲れてしまうのです。
新しい店舗や新しい商品販売を開始すると言いながら、なかなか開始しない経営者の方がいらっしゃいます。なぜすぐに始めないのですかと質問させていただくと、「まだまだ商品知識が十分じゃないから」とか「マニアが満足できる商品数を輸入出来ないから」などとおっしゃいます。でも一般消費者は、良いものが分かりやすく少量並べられている方が、買う気になるのです。
会社として利益を出すためには、あえて商品数をおさえて、一般消費者が選択に疲れないようにしなければなりません。もう少し言い方を変えると、広く浅い知識よりも、狭く深い知識の方が強い武器になるということです。「世界中のワインが置いてありますよ。どのワインの説明もある程度は出来ますよ。」というお店よりも「うちのお店にはワインは5種類しかありません。しかし、ワインの製造者のことは熟知しているし、料理へのアレンジ方法も説明できるし、最もおいしい飲み方も解説できるよ。あなたが居酒屋の店主ならワインと相性のいい食事メニューもご提案しますよ。」という方が一般消費者は、嬉しいのです。
もしも現在、商品数が多すぎる状態になってしまっているなら、それをグループ別に分ける必要があります。パンフレットやホームページなども、まずはグループ別のページやボタンを配置して、入口を簡単にしておきます。そして、お客様がなるべく選択しやすいように誘導してあげなくてはなりません。
思い起こしてください。カップ麺でも「赤いきつね」か「緑のたぬき」ですよ。CMでは、2種類の選択しかさせていません。アシックスのバスケットシューズでもベーシックな人気シリーズは、3種類しかありません。森永牛乳もスーパーによく置かれるものは、2種類だけです。三菱鉛筆が出している水性ボールペンは、3種類だけです。積水ハウスの2階建て鉄骨住宅シリーズは、6つしかありません。これらは、戦略的に商品数を少なく抑えていると考えられます。
ましてや我々は、大資本を有している大規模企業ではありません。限られた資本で勝負しなければなりません。我々が勝つためには、対象エリア、対象商品、対象顧客などを狭く絞る必要があります。絞ることが出来れば、大規模企業にも勝てる可能性が十分にあります。
多くのメニュー・多くの商品・多くのサービスを用意するためには、5年あるいは10年かかるかもしれません。その割には、高い効果は期待できないかもしれません。いつも答えは、足元にあるのかもしれません。現在ある商品やサービスの質を高めてブランディングすることが出来れば、新商品や新メニューは必要ないかもしれません。そして、今あるサービスをブランディングするのは、それほど多くのお金もエネルギーも必要としないかもしれません。

余談ですが、シーナ・アイエンガーという大学教授は、若い女性で盲目です。ユーチューブでも見られるので、一度彼女の声を聞いていただきたいと思います。
私達は目が見えるのでラベルが気になります。バッグならビトンのラベルが付いていれば安心します。車ならTOYOTAのラベルが付いていれば安心します。服ならブルックスブラザーズのラベルが付いていれば安心します。でもそのラベルを取られたら、私達は何が本物か見分けることが出来るでしょうか?正しい選択をすることが出来るでしょうか?これもアイエンガーは実験しております。服のラベルを取ると、多くの方はブランドでない服をブランドと思い込んで選択するそうです。もしかしたら、目の見えないアイエンガーの方が、手や耳の感覚が優れていて本物の選択をできるのかもしれません。
アイエンガーは、まだ現在も生きている学者で、早口で話す元気のある女性です。


つれづれ日記 10回目
早いもので、私の息子(3人のうちの長男)も来年は小学生です。あっという間に背も伸びて少年らしいことも言うようになりました。親としていろいろと身に付けさせてあげたいと思うのですが、お金も時間も限りがありますので、何を与えればよいのかと迷うところです。
そこでやはり私は、「経営理念」ならぬ「教育理念」というものを考えるわけです。いったいどんな子にしたいのか。なぜ教育というものが存在するのか。といった事柄です。これは正解がありませんし、人の価値観によって違いますので、私なりの考えを簡単に述べたいと思います。
私は、学校の成績は悪くても良いと考えています。学校の成績が良くなければならない、と考えてしまうと、生きていくのが辛いだろうと思うからです。
学校の成績よりも、「非常事態におちいったときに、そこから脱出する方法を見つけられる人」になって欲しいなと思います。人生の中で、「もう死にたい」「このままだと犯罪を犯してしまう」といった非常事態は、誰にでも訪れるはずです。そこで自暴自棄にならないで、サイコロを投げて決断するのでなく、自分の頭で冷静に考えて活路を見いだせる人になってもらいたいと、親として願うわけです。
ですので、なんでもいいので、「学校では経験できない事」、をやらせてあげたいと思います。私のような偏屈な人間は、学校の先生からすると、面倒な親だと思います。
仕事の関係や経営者の集いで、大きな会社の経営者とお話しさせていただくこともあります。そこで、感じることがあります。それは、事業を成功させるために、特別に優秀な頭脳は必要ないのではないかということです。もちろん頭脳明晰な方が、失敗する可能性は減少すると思うのですが、それだけではなかなか永続的に発展は難しいのではないかと思うのです。
安定して発展されている経営者の方は、セルフコントロールが出来る方なのではないかと感じます。セルフコントロールというのは、頭脳明晰とは意味合いが違います。簡単に言うと、我慢する力です。買いたいものがあっても買わない。テレビを見たくても本を読む。怒りたくても我慢する。水曜日は水泳をすると決めたら、必ず水泳をする。約束をしたら、その後面倒になっても約束を実行する。健康診断でお酒を止めなさいと言われたら、
止める。などなど。
事業の成否に大きく関係するのは、学歴よりもセルフコントロールの力のように感じます。
またセルフコントロールできる量は、決まっているらしいです。コップの水をイメージしてください。コップの水も飲み干せばなくなります。それと同じように、一日の中でセルフコントロールできる量にも限度があります。
だから会社ではすごく生真面目で神経を使っている人が、自宅に帰ると掃除も出来ないで部屋が片付けられない人がいます。これは、本人が悪いのではありません。仕事の時間に、セルフコントロールを使いすぎているので、自宅に帰ってきたら、それが残っていないだけなのです。
ただし、このセルフコントロールする力がなくなっても、さらに頑張る方法があります。それは遠くの利益を推測するということです。例えば、寝るまえにラーメンを食べたい。でもこのラーメンを食べることを我慢すれば、明日の朝はスッキリと目覚めることが出来る。というように、それを我慢すれば、未来にどれだけ良いことが起きるか推測すれば、セルフコントロールする力を使い果たしても、まだまだ頑張れるそうです。
スタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェルが1960年代にマシュマロ実験という有名な実験をしました。どのような人間が大人になってから経済的に裕福になるかを長期間のモニタリングにより調査したのです。その結果、幼児の頃にセルフコントロールをする力が強かった者が、大人になってから裕福になっているという結論が出ました。ただし、幼児の頃にセルフコントロールする力がなくても、その後の学校生活やスポーツなどを通して、それを身に付けて成功している者もいるということまでわかりました。
事業の成功は、頭脳でも財力でもなく、セルフコントロールする力だと言うわけです。この説を信じる必要はないと思いますが、参考にはなるはずです。
さて、そういう私は、セルフコントロールする力が十分にあるのか?と自問自答しますと・・・あまりないように感じます。ですので、あまり子供には厳しいことは言えないのです。それよりもとりあえず健康で事故なく成長できれば、それで幸せじゃないかと思ってしまうのです。
幼稚園で我慢して先生の言うことを聞いたり、友達に気を使っているので、せめて家に帰ってきたら、我がままを言ったり、だらしなくしたりしたいだろうと思ってしまうのです。そういえば従業員にも厳しいことは、私は言いませんね。自分が一番バカだと本当に思っているからです。