事務所通信

事務所通信 平成30年8月

平成30年8月31日
つれづれ日記 「会計とは何か?」        税理士 舩橋信治

今更ながら「会計とは何か?」という問題について、考える機会がありました。一般的に経理をする人間に求められるのは、「簿記の資格を持っている」とか「数字に強い」という要素を挙げられることが多いと思います。これは、これで正しい。しかし、それだけで経理が出来るのか?という疑問も湧(わ)き出ます。もし本当にそれだけあれば経理が出来るというのであれば、経理という処理はひじょうに非人間的でドライなものになります。
しかし、私が感じる経理担当者に必要な要素とは、前述の要素を前提としつつ、さらにそこに二つの要素が加わります。一つは、コミュニケーション能力が高いということ。二つ目は、前向きで健康的な心をもっていることです。
まず一つ目。なぜコミュニケーション能力が高くなければならないのか?経理担当者が処理を行った後に、その内容を社長に報告しなければ、社長は経営の判断をすることが出来ません。その月の経理処理が完了してパソコンの電源を切って、「あーあ、今日も仕事を頑張ったぞ!」と帰路に着いてしまったら、重要な情報はパソコン内部にストックされたままです。これでは、税金の申告は出来ても、会社の成長に何一つ貢献していません。だからこそ、経理担当者は、社長に逐一(ちくいち)経理の情報を伝えて、社長に「経営を考える機会」を与え続けなければならないのです。
いやいやそれは税理士の仕事ですよ。経理担当者は、あくまでも経理処理のみをすればいいのであって、その報告は税理士さんの仕事でしょ。・・・という意見もあるかもしれません。確かにその通りです。しかし、より会社を強くしていこうと考えたら、経理担当者からの報告は必須となります。なぜなら、税理士事務所が会社に訪問するのは、よく行って月に一度です。でも経理担当者なら毎日会社に来ています。より新鮮な情報を得ることが出来ます。
しかし、この文章は、経理担当者を攻めて追い込んでいるわけではありません。今現在、社長に報告が出来ない経理担当者は、たくさんいらっしゃると思います。もし報告が出来ていないとしたら、その「報告の仕方」を伝えていない私(舩橋)の責任なのです。そういう思いもあって、今回「財務報告力養成講座」を開催させていただきました。
経理担当者に必要な要素、二つ目の「前向きで健康的な心」についてお話しさせていただきます。
先日、息子(小学校1年生)がピアノコンクールに参加しました。成績は、最下位でした。妻は、「こんな成績ならもうコンクールには参加しない方がいい。発表会だったらみんな褒めてくれる。この間の発表会は、あるおじいちゃんが、すごく褒めてくれたもの。コンクールなんて意味ないよ。」と言いました。しかし、僕は次のように諭しました。「コンクールは勝ことが目的じゃないよ。前回のコンクールに比べたら今日はミスなく堂々と弾いていたよ。それに今は技術を伸ばすことが重要ではないんだよ。音楽って楽しいなって感じたり、人前で緊張することに慣れたり、そういうことの方がずっと大切だよ。それにコンクールで負けたことによって、すごく学んでいるんだよ。自分よりすごい子供は、いっぱいいるっていうこともわかる。負ける悔しさも味わえる。次はどうやったらもっといい成績がとれるか考えるキッカケにもなった。発表会は発表会で出ればいいけど、コンクールはなるべく続けて出た方がいいよ。もっと遠くを見ようよ。この子は、絶対にもっとピアノが上手くなるっていうことを信じようよ。信じるっていうのは、ある根拠があって信じることを、信じるっていうんじゃないよ。何も根拠がないところで信じることを、信じるっていうんだよ。」そんなことを妻にいいました。そしたら妻が「はい。はい。そうだね。」と軽く聞き流しました。いつものことか。
経理担当者が社長に報告するときの報告の仕方も重要だと思うのです。「社長、売上が伸びていませんよ。ぜんぜんダメですよ。」なんて言われ方をされたら、社長はヤル気になるでしょうか?「社長、売上が下がっているのはなぜでしょうか?私達で力になれることは何かありますか?」と言われたら、社長も従業員のために頑張ろうと思うのではないでしょうか?
未来は、どのように造られるのでしょうか?いろいろな好条件が揃っているから輝かしい未来がやってくるのでしょうか?私はそう思いません。好条件がそろっている中小企業など見たことがありません。必要なのは、前向きで健康的な心だと思います。それがなければ中小企業は発展しないと思います。だからこそ、社長に報告する立場にある経理担当者は、前向きで健康的な心をもっている必要があるのです。またもっていないのであれば、そのように振る舞うことが大切だと感じます。しかし、ここでも経理担当者を攻めているのではありません。経理担当者には、そういったスポーティーなアクティブな精神が必須だということを伝えていない私(舩橋)が悪いのです。だから、財務報告力養成講座では、その点にも折に触れて発言していきたいと考えています。
誰かが失敗したとき。「あーあ」とか「やっぱり」とか、それみたものか、のような発言をする人は意外に少なくありません。でも中には、人の失敗を見て見ぬふりをしてあげたり、それをサポートしたり、励ましたりする発言をする人もいます。経理担当者に求められる要素は、このようにひじょうに人間的なものです。経理担当者は、ピアニストと同じです。ピアニストが楽譜を読み込むのと、経理担当者が会計データを入力する作業は同一です。その後、ピアニストが人を感動させる演奏をするのと、経理担当者が人を勇気づけ何かを考えさせる報告をするのも同一です。

9月から始まる財務報告力養成講座では、経理担当者さんが負担に感じないように、社長に報告するのが楽しく感じられるように工夫をして伝えていきたいと思います。
財務報告力養成講座の参加料は無料で、おまけに私が料理したカツ丼が昼食についてきます。同封したチラシをご確認していただき、ご参加していただければ嬉しいです。今後も財務報告力養成講座は、続けて参りますので、来られるときに、又は、受講したい講座があったときに、お気軽にご参加いただければと思います。
私は、祝祭感覚が好きです。人と面談するのも、仕事をするのも祝祭だと感じております。だから楽しく笑いながら勉強したいと思い、カツ丼を料理することにしました。

追伸 財務報告力養成講座では、「経理担当者のお悩み交換会」の時間もあります。同じ経理担当者が、同じ空の下で、同じ悩みを抱えている、ということを知ってください。そして、気軽になってください。


平成30年9月1日
経理担当者は、風のように柔らかく。
舩橋信治
経理担当者は、目立った特技を持っているわけではありません。営業部の営業マンは、会社に必須の仕事をとってきます。製造部の技術者は、現実に形として目にみえる製品を造り上げます。経理担当者は会計データ入力しているくらいで、これといった特技を使って仕事をしているようには見えない。こんなふうに思われがちなのが、経理担当者ではないかと感じます。
しかし、私は、経理担当者というのは、特別なポジションに立っており、会社の運命の鍵を、その懐に隠し持っていると考えています。なぜかというと、会社全体を数字を使って正確に把握出来ているのは、経理担当者のみだからです。下の図をご覧ください。

経理担当者は、A基準B基準C基準D基準を内包させる
営業部は、営業部の事情しかわかりません。製造部は、製造部の事情しかわかりません。もし製造部が営業をしてしまったら、儲(もう)かるものではなく、好きな物ばかり作っているでしょう。そうしたら利益は出ません。もし営業部が開発をしたら、儲かることだけを考えて開発を進めるでしょう。これでは、社会が受け入れる特許を取得することは出来ません。このように部署ごとに別々の文化や基準がありますので、その部署についてはエキスパートでも他の部署のことは、あまりよくわかっていないのが普通です。
しかし、経理担当者は、各部署から数字や書類が集められてきますので、全体の部署を客観的にデータ的に常に眺めています。会社全体を最も俯瞰的に冷静に見れるポジションにいるのは、経理担当者なのです。
その経理担当者が各部署の人間とコミュニケーションをとって、世間話をしながらその部署特有の悩みや強味や外部環境などを聞きます。そうすると、徐々にその部署のみがこしらえている流儀、文化、基準がわかってきます。それらの基準と会計データを併せてみていくと、その部署が会社の成長に貢献しているのか、あるいは、将来どのような危険が迫っているのか、ということを推測できる可能性が高まってきます。
それって社長の仕事でしょ?と思われるかもしれません。そうなんです。経理担当者は、社長以上に会社の状況がよく見えるポジションにいるのです。中小企業の社長は、毎日やることが多くて、日々の取引で追われています。意外に会社全体を眺める時間がありません。会社に見えない危機が迫っているとしたら、それを最も早く察知するのは、おそらく、社長でもなく、占い師でもなく、コンサルタントでもなく、現場の人間でもなく、詩人でもなく・・・・経理担当者だと思います。
例えば、物価の微妙な変動は営業利益率を変化させます。従業員の不正は、現金実査に出てきます。外注費の高騰は、限界利益率に顕著(けんちょ)に表れます。ただし、経理をとにかくやっていれば、経理担当者は、会社の全体が把握できるようになるというわけではありません。一つの心構(こころがま)えが必要です。
それは、「他者の基準を内包させる」という心構えです。上記の図にありますように、営業部にはA基準があります。製造部にはB基準があります。その部署、その人ごとに別々の価値観や文化があります。それを自分と関係がないというスタンスで無視するのではなく、その垣根を越えて、その基準を受け入れる柔らかさをもつ必要があります。
風は、柔らかく吹きます。なぜ風は、あんなにも柔らかいのでしょうか?山があれば、山の形にそって風は流れていきます。ビルがあれば、ビルの形にそって風は流れていきます。それぞれの主張を受け入れて、何も言わないで風は流れて行きます。
もしも経理担当者が各部署の基準を自己に内包させて、そのうえで数字のデータを使いそれぞれの部署を見て、また会社全体を見ることが出来たら・・・そこには何かしらのメッセージが電波にのって流れているはずです。そんなふうに会社を見て、状況を報告してくれる経理担当者がいたら、社長は涙を流して喜ぶはずです。だって、そんな価値観をもった経理担当者には、おそらく社長は出会ったことがないはずだから。
社長も人間。社長も社長の地獄を抱えて生きています。そんな重みを少しとってあげて楽にしてあげる。人の重みを一つとると、自分の重みは三つなくなる。経理担当者は、そういうことができるポジションに立っている、会社になくてはならない重要な存在だ、その代わりは簡単には見つからない、と私は考えています。


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